
ブリュッセルに向かうI.C.の座席に座り、車窓に展開する雨上がりの田園風景をぼんやり眺めながら考える。アール・ヌーヴォーとは一体何であったのだろうか。今回の旅でブリュッセル、アントワープ、ゲントの3つの場所で様々な形のアール・ヌーヴォー建築を見た。これらは私達がアール・ヌーヴォーとしてイメージするオルタやギマールのデザインの中にはおさまらないものをそれぞれ持っている。建築家個々人の差ももちろん有り、さらにブリュッセル、アントワープ、ゲントの地域的な違いも有る。そして、それらのいずれもが、、18世紀から19世紀初頭ヨーロッパ建築様式を席巻したネオクラシズム、ネオルネサンス、ネオゴシック、ネオバロックなど歴史主義には飽き足らず、彼等の新しいスタイルを造り出そうとするエネルギーに満ちあふれている。彼等は産業革命の新技術と、それによって生み出された新素材を組み合わせ、彼等の新しい様式を造り出した。しかしその新しい様式によるデザインも、それを彼等に依頼するクライアントがいなければ実現しなかったはずだ。そして、そのクライアントとて新しい様式の建築を依頼するためには、財力が必要だ。それらは、全て新しい時代が準備し、新しい様式を作らせたのではなかったか。それは新しい時代の意志であり、オーダー(注文)ではなかったか。そして速い速度でやって来たその終焉も。
しばらく、物想いに耽っていると、車窓の田園風景は都市の町並みへと変わった。I.C.は30分ほどでブリュッセ中央駅に到着した。今回の旅の最初の日の様にホテルに向かって坂を下りる。そのホテルは若い3人のスタッフが交代でレセプションをやっている。ブロンドの背の高い女の子、やはり金髪で眼鏡をかけた銀行員の様な感じの男の子、そしてもう1人、多分彼女はラテン系だろう、黒い髪で目はグレー、小柄でちょっとセクシーな感じの女の子だ。最初にブリュッセルに着いた時のレセプションは、その女の子だった。飛行機が遅れてしまって、ホテルへの到着時刻が遅くなってしまう旨の電話を空港からかけた。「It`s OK. NO problem!」と言う彼女の言葉に、なにかほっとした安心感を感じたものだった。今日のレセプションも彼女だろうか。
ホテルのドアを開けるとやはり彼女だった。「Hello again!」と彼女は笑顔で私を迎えてくれた。明日でこの旅も終わりだ。最後のブリュッセルもなかなか良い気分で終わりそうだ。10日間の短い取材旅行であった。ブリュッセル、アントワープ、ゲントともまだ見落としている部分が沢山ある。再び近い将来ベルギーを訪れたいと思う。その時も彼女は「Hello again!」と言って私に微笑んでくれるだろうか。