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今夜の番組チェック

17. アントワープの奇妙な建築 2

(コーヘル・オジレイ「狂気のアール・ヌーヴォー建築群」)

The strange architectures in Antwarp 2

(The crazy art nouveau architectures in Zurenborg)

Cogels-Osylei

 昨日インフォメイションのオニイサンに教えてもらった通り、ホテル近くの聖ジャコブ教会前で11番のトラムに乗る。トラムは中央駅前を通り、動物園の通りに入っていく。後で分かった事だが、この動物園もなかなかのアール・ヌーヴォー建築なのだ。次回の取材の時にはこの動物園も見る事にしよう。トラムは狭い通りを車とすれすれで通り抜ける。国鉄のガードを潜るとコーヘル・オジレイ(Cogels-Osylei)だ。私はガード下の停留所で降りた。このツーレン・ボルグ(Zurenborg)地区のトランスヴァール通り(Transvaalstraat)、ワ−テルロ−通り(Waterloostraat)、ヴァン・メルレン将軍通り(Generaal Van Merlenstraat)それとコーヘルオジレイ(Cogels-Osylei)に、まるでテーマパークの様にアール・ヌーヴォー建築が建ち並んでいる。
 まずはトランスヴァール通り62番地(140 Huis / *****)から始めよう。庭に面したバルコニーなど、なかなかのアール・ヌーヴォーだ。窓廻りのレリーフも良い。ノンデータなので建築家不明。56番地にはヨーゼフ・バスクールの「Boreas」(141 Huis Boreas / Joseph Bascourt)がある。バスクール独特の出窓(オリエル)が付いている。フランボワイヤン・オリエルと言うらしい。外壁の施釉レンガは塗装されてしまって竣工当時とは違っている。1898年の作品で、エクレクテジアン(折衷主義者)バスクールとしては最初のアール・ヌーヴォー建築である。
 そして隣の連棟の住宅が彼の3年後の作品だ。「パピルスとロータス」と言う名前がついている。52番地の1階の窓が1つの方が「ロータス」(142 Huis Lotus / Joseph Bascourt)で、54番地の窓が2つの方が「パピルス」(143 Huis Papyrus / Joseph Bascourt)だ。ダブル・アーチの窓の外側をポインテッド・アーチが囲んでいる。そして左右に添えられたロータスの花、センター・マリオンから吹き出す様に咲くパピルス。しかしこのアーチは何なんだろう。一見するとイスラム風のエキゾティックなアーチだ。パピルスもロータスもエジプトに由来するものではあるが。
 さらに番地の若い方に進んで行くと30番地(144 Huis / ****)32番地(145 Huis / ****)、34番地(146 Huis / ****)

アール・ヌーヴォー様式の建物がある。この中では30番地の住宅(144)が面白い。トランスヴァール通りの18番地(148 Huis / ***),20番地(147 Huis / ***),6番地(150 Huis / ***)まで見てちょっと引き返し奇数番地の17番地を見ると下2層がレンガで上1層3階部分がハーフティンバーの奇妙な住宅(149 Huis/ ***)が有る。1階の窓がバスクールのデザインとまったく同じなのでこれは彼の設計によるものかもしれない。

ヴァン・メルレン将軍通りに入る。何か有りそうな雰囲気を感じながら歩いて行くと、それはあった。26番地の若干アールヌーヴォー風の住宅(151 Huis / ***)の隣にテラスハウス風に庭が塀で囲ってある住宅が通りを挟んで、向かい合って建っている。通りに面して同じデザインのオリエル窓が付いている。バスクールのフランボワイヤン・オリエルだ。そしてワーテルロー通りとの交差点まで来ると、同じデザインの建物が4つ、交差点の角に建っているのが分かる。そうだ。これが「四季(DeVier Seizoenen)」(152~155 Les quatre seisons / Joseph bascourt)(152 De Lente) (153 De Zomer) (154 De Herfst) (155De Winter)だ。昨日、インフォメイションのオニイサンがパンフレットを説明する時、カタコトの日本語の中に英語で「four seasons」と言う言葉が出た。そう言う名のアール・ヌーヴォー建築があるので見たら、と言って地図にマークしてくれたのを思い出した。
 私はこれがその「四季」なのだ、と不意の出合いに感激し、交差点の中央に立って4つの建物を見回した。それぞれのコナー部の外壁は金色やブルーのモザイクで「四季」がシンボリックに描かれている。私は突然の出合いに有頂天になり、夢中でシャッターを切り続けた。そして日本に帰ってから大失敗に気が付いた。4つのモザイク画のアップを全て撮ったつもりが「春」(152 Huis Lente / Joseph Bascourt)だけ抜けていたのだ。後悔先に立たず。どんなに素晴らしい獲物を前にしても冷静さを失わず、確実にそれをしとめるのがハンターの心構えと言うものだ。私はまだまだ修行が足りない。とは言え、その時は失敗に気付かず、私は満足して次のターゲットに向かうのだった。
 ワーテルロー通りを右に入り、次々に現れる面白アール・ヌーヴォー建築に度胆を抜かれる。「夏」(153 Huis Zomer Joseph Bascourt)の隣、18番地の建物(156 Huis / ****)、これは何だ。オレンジに近いベージュの施釉レンガに赤とブルーのレンカでアクセントを付けたファサード。人の目と口の様な窓。昨日見た、あの船の舳先をそのままファサードに取り付けた、スメット・ヴェルハースの施釉レンガの色と同じだ。ブルーとレッドのアクセントの付け方も良く似ている。これもヴェルハースの設計によるものだろうか。
 向かいに目を移すと27番地にはジャック・ドゥ・ウィールの比較的良く手入れされた住宅(157 Huis / Jacques de Weerdt )がある。2階のバルコニーの手摺や開口部、コーニス(蛇腹)下部の絵タイル等が面白い。31番地にはバスクールの「妖精(Huis Nympho)」(158 Huis Nympho / Joseph Bascourt)がある。コーニス下部のフレスコ画は白く塗られてしまっている。3階部分の開口部のダブル・アーチ窓を囲むポインティド・アーチがバスクール・イディオムだ。26番地(159 Huis / ***)28番地(160 Huis / ***)の2棟は何となくブリュッセルのブレロっぽいデザインだ。隣の30番地(161 Huis Napoleon / ***)にはナポレオンのフレスコ画。そう、ここの通りの名はワーテルローだ。向かいの奇数番地を見てみよう。37番地の住宅(162 Huis / ***)のパラペットのデザインはブリュッセルのタシテュルネ通りのポール・サントノアの住宅に似ている。隣の39番地はジャック・ドゥ・ウィードの「Les Mouettes(鴎)」(163 Les Mouettes / Jacques de Weerdt)だ。3階のバルコニー手摺を左右から魚が銜えている。床はガラスなのだろうか黄色の透過性のある素材だ。大きくカーブして手摺の魚に繋がるレリーフの内側はモザイク画で水辺に遊ぶ鴎が描かれている。49番地(164 Huis / ***)51番地(165 Huis Swan Lake / ***)の2棟のモザイク画も面白い。51番地の住宅には湖に佇む白鳥の群れが描かれている。この建物には「Swan Lake」とでも名前を付けよう。
 ワーテルロー通りの出口、奇数番地の終わりの3棟もアール・ヌーヴォー・イディオムによる住宅(166 Huis / ***),  (167 Huis / ***),  (168 Huis a day in the life/ A. Cols & A. Defever)だ。53番地の住宅は丸い大きな窓とバルコニーが白い外壁マッチして素敵だ。57、59、61番地の住宅は(168 Huis a day in the life) エントランスが3つあるので3連棟の住宅だろう。ファサードは1つの建物としてデザインされている。中央の2階バルコニー開口部と左右の棟のパラペットの絵タイルによる壁画が目を引く。右の壁画には「De Nacht」の文字とクレセント・ムーン,それに薄衣をたなびかせて夜空に舞う女神が描かれている。左側はかなり傷んでいて、何が描かれているのか分からない。鳥の様でもあるし蝶の様でもある。文字は「De Day」か?そうすると「昼」と「夜」か?この建物は「A day in the life」とでも名前を付けよう。この建物でワーテルロー通りはおしまい。
 グアド・ヴリエ通り(Guld Vlies Straat)に出て東へ少し歩くと、いよいよコーヘル・オジレイだ。左手86番地のジャック・ドゥ・ウィールド設計の「Quinten Metsys(メティシス5世)」(169 Quinten Metsys / Jaques Weerds)だ。何だ、これは!あのアンビオリ広場のストロヴァンのコピーじゃないか。それにしても、ずいぶんヘタなコピーだ。無茶苦茶だ。でもこれがコーヘル・オジレイなのかも知れない。何でも有りの面白アール・ヌーヴォー・テーマパークの、これは最右翼の作品なのかも知れない。正統派クラシックオーダーからイスラム・アラビック、同世代の話題の建築からの引用、果てはそっくりコピーまで、ありとあらゆる意匠を飲み込む折衷主義がアントワープ・アール・ヌーヴォーの真髄か?
 70、72番地の住宅(170 Huise Ster / ****)はエントランスの星形アーチが面白い。フレミッシュ・ルネサンスのファサードにアール・ヌーヴォー調のエントランスを組み合わせた折衷主義のデザインだ。コーヘル・オジレイの奇数番地も見てみよう。こちらはネオクラシズムあり、ネオゴシックありの大邸宅ばかりだが、59番地の1つ目小僧風の住宅(171 Huise One eyed / A. Cols & A. Defever)はコルスとドゥフェヴェールの作品だ。
 そして55番地にはバスクールの「明けの明星(De Morgenster)」(172 De Morgen Ster / Joseh Bascourt)がある。アティックの小さな窓が目、そして2階のダブル・アーチの窓が鼻、1階の3つの開口部が口だと考えると、コーヘル・オジレイに向かって歯をむき出して、バカ笑いしているブタ鼻顔に見えて来る。愉快な建築だ。
 さらにコーヘル・オジレイを若い番地の方へ進む。50番地の白い住宅がジュール・ホフマンの「De Zonne Bloem」(173 De Zonne Bloem / Jures Hofman)だ。かなりハデハデなロココ調のデザインだ。46、44、42番地の3棟もアール・ヌーヴォーイディオムの建物だ。46番地の「De Roos」(174De Roos / Jures Hofman)は50番地の「DeZonne Bloem」の設計者と同じジュール・ホフマンだ。2階バルコニーの手摺がガウディを思わせるデザインだ。44番地の「Iris de Lishbloem」(175 Iris de Lishbloem / Van Den Bosshe )の設計者はヴァン・デン・ボッシュだ。端正に纏められたファサードはタイトル通り可憐な感じだ。切り妻屋根をバルコニーのためバッサリと切り落としている。潔いデザインが素敵だ。42番地の「De Water Leliees」(176De waterleliees / A. Cols & A. Defever)は先ほどの奇数番地にあった一つ目小僧の設計者と同じコルスとドゥフェヴェールだ。粗石積み風のファサードやエントランスドアのデザインにちょっと凄味のある建物だ。