16.アントワープの奇妙な建築1

(スメット・ヴェルハースの 「五大陸」)

The strange architectures in Antwarp 1

(De Vijf Wereddeelen of Smet-Verhas)

 ブリュッセル中央駅からI.C.で40分たらずでアントワープに着いた。アントワ−プ中央駅はネオゴシック様式で建てられた素晴らしい建築だ。私にはゴシックと言うよりはバロックと言ったほうが良い様に思えるのだが、ガイドブックにはそう書いてある。
 ホテルは騒がしい駅前や目ぬき通りを避けて、少し離れた所にとった。タクシーの運転手にその名前を告げると、「ムシュー、素敵なホテルにお泊りですね。」と言う。18世紀の邸宅を改造したそのホテルは、たしかに静かで落ち着いた良いホテルだった。マルクト広場へも徒歩5分のシザー通り(Keizers straat)に面していて、大きな門をくぐると中庭があり、突き当たりがエントランス・ロビーだ。レセプションの女性は若くて素人っぽい可愛らしい女の子だった。ブリュッセルでは相当なスピードでアール・ヌーヴォー建築を見て回ったので、少々疲れてしまった。今日はのんびり観光でもしよう。
 マルクト広場周辺の旧市街地をそぞろ歩き、午後3時頃には一通り観光は済んでしまった。今回アントワープへ来たのには目的がある。フランク・スメット・ヴェルハースの「五大陸」を見る事、そしてコーヘル・オジレイの「狂気のアール・ヌーヴォー建築群」を見る事だ。

 市庁舎横のイフォメイションに行く。入っていくと観光地らしく中はけっこう混雑していた。係のオニイサンがイタリア人と思しき中年婦人グループに英語でジョークを飛ばしながら話をしている。中年婦人グループが礼を言い、笑いながら出て行った。私も英語でガイドマップがあるかどうか尋ねた。すると、そのオニイサンから「だいじょーぶでーす、わたし日本語オーケーです。」等と答えが返って来た。「ガイドマップあります。できたてのホヤホヤネ。これ$20です。」と言う。なんでインフォメイションのガイドマップが$20もするの? どうしてそれもU.S.$で言うの? などと思いながらサイフを出そうとすると、「じょうだん、じょうだん、これタダです。」と言う。「わたしは市の観光局の仕事で毎年2回は日本に行ってます。溜池のベルギー観光局、知ってますか?阿佐ヶ谷にわたしの友達、住んでます。」「ところで、あなたはどこに行きたいですか?何を見たいですか?」と聞くので、「コーヘル・オジレイに行ってアール・ヌーヴォー建築を見たい。」と言うと、「それは素晴らしい、このパンフレットにも、ほらここに写真が載っています。」と言いながら、パンフレットを見せてくれた。彼はコーヘル・オジレイへ行くトラムと、どこで降りれば良いかを教えてくれた。私はさらにコーヘル・オジレイでランチをとれる良いレストランはないか、尋ねた。彼は「メロニーズ」と言うカフェ・レストランを教えてくれた。ここは建物もアール・ヌーヴォー期に作られたもので、素敵なレストランです、とのことだった。よし!これで明日の準備は出来た。今日は、これからまずスメット・ヴェルハースの「五大陸」を攻めよう。

 それは王立美術館の裏にあるはずだ。王立美術館へは歩いて30分弱とのことなので、ちょっと遠いが観光見物がてら歩いて行く事にする。クロスタ−通り(Klooster straat)を建ち並ぶアンティークショップをひやかしながら、ぶらぶらと歩いて行く。様々なアンティークショップがある。珍しいのでは中学校の理科室にでも置いてある様な人体模型の人形を専門にコレクションしている店があったりする。こんなものまでアンティークにしてしまう感覚はずいぶん日本人とは違っている。船舶用品ばかりの店、日本だか中国だか分からない様な東洋趣味のコレクションの店、セックス行為を象った陶磁器を専門にコレクションしている店など、中々興味深いアンティークショップが1H近くに渡って建ち並んでいる。

 途中、オリジナル照明器具の店があった。ショウ・ウインドウにガレやドーム兄弟の様なデザインのランプスタンドが置いてあるのが目に止まった。古い住宅を店舗に改造した素敵なお店だ。1階の床を一部刳り貫き、地下と繋げて吹き抜けを作ったりしている。地下もショールームになっていてレンガ造りのボールト天井にランプスタンドの照明が部分的に光を落とし、幻想的な雰囲気を醸し出している。ドームのデザインを思わせるマッシュルーム形のシェードがついたスタンドが気に入り、よほど買おうかと考えたが、持って帰る事を考えて断念した。値段も2万円ほどで手頃だった。今考えると残念な気もする。

 王立美術館が見えて来る。横のシルダー通り(Schilders straat)と裏手のスニーデル広場通り(Plaat Snijders straat)との交差点の角に「五大陸」(137 De Vijf Wereldeelen / Francs Smet-Verhas) は建っていた。建物は船のイメージでデザインされている。そのコーナー部には実物の船の舳先が突き出していて3階のバルコニーになっている。スニーデル広場通りの1階屋上は船のデッキを模したテラスとなっている。資料によると、この住宅はシップオーナーの家とのことだが、五大陸を股にかけて活躍した船主の記念碑としての住宅なのだろうか。面白建築大特集など、マンガ週刊誌で企画したら、まず最初に登場する様なとんでもない建築だ。設計者のヴェルハースってどんな人だったのだろうか。隣のスニーデル広場通り3番地の住宅(138 Huis / Francs Smet-Verhas)、シルダー通りの6番地の住宅(139 Huis / Francs Smet-Verhas)も同じデザインなのでヴェルハースによるものだろう。彼はこの住宅の外あのコーヘル・オジレイのあるツーレン・ボルグ地区でも何軒か住宅をやっているはずだ。明日はいよいよ「狂気のコーヘル・オジレイ」だ。